障害年金ストーリー「高機能自閉症・知的障害」その4 / 5

第7章



 「よいしょっと、じゃあ・・・これでいいか」

 2月20日。私は三輪英男さん(仮名)の障害年金診断書作成のための書類一式をレターパックに入れて郵便局に提出した。
 三輪さんの次回受診日は、2月25日とのことだった。それまでには(というか1~2日で)三輪さんには届くだろう。

 三輪さんに送った書類は、細かくなるが下記の通りだった。

① B先生への送付状

② 障害年金診断書作成の依頼書

③ 英男さんの病歴や日常生活の様子を、診断書の項目ごとにまとめた参考資料

④ 「精神の障害」用の診断書(B先生に書いていただく書類)

⑤ 三輪さんから私への委任状

⑥ 私の社労士手帳をコピーしたもの


 上記書類を、次回受診日である2月25日に、三輪さんにA病院に持って行っていただく予定だった。


 上記書類の③は、これまでお母さんに色々伺ったことをまとめたもので、英男さんが生まれてからこれまでの経過を、受診病院(とはいっても知的障害・高機能自閉症に関しての病院)を時系列でまとめ、その他、日常生活でのエピソードや日常生活に関する項目、例えば「食事の摂取」や「身体の清潔保持」など、具体的な内容を盛り込んでいる参考資料だ。

 これらの書類があれば、基本的に私が同行しなくても、日常生活についての説明はいらないだろう。いかに10年間主治医であったとはいえ、普段の生活の細かな点まで知らないこともあると思う。その点を補足するためのもので、内容は全部三輪さんに確認いただいている。ただし、この資料はあくまでも参考資料であり、主治医先生にこれらの状況を踏まえて、診断書を書いて欲しい、と強制するものでは当然ない。誤解がないように、念のため付け加える。(その辺は、全国社会保険労務士会連合会の職業倫理の方針に沿うように職務を行っているつもりだ。特に「社労士による医師への働きかけの内容について」は気を遣っている。)


 ②の書類は、診断書を記載経験の少ない方への説明であり、今回のB先生には余計なものだと思う。これはドコドコの欄は必ず書いて欲しい、といったような案内状で、経験豊富な先生は全く見ることもないだろう。忙しい医師の先生方には、なるべく少量の文書をお渡ししようとは思うのだが、老婆心から5,6枚の文書になってしまっている。



 私自身は、患者さんと一緒に医療機関には行かないのか? と質問されることもある。原則としては行っていない。診察室に突然スーツを着たオジサンが、患者さんと一緒に入っていくと、おそらく主治医先生は当惑するだろう。ちょっと場違いな感じがする。ただでさえ、お忙しい先生にこちらから進んででしゃばることはしていない。これは私なりのスタンスであり、もっと積極的に同行される同業者もいらっしゃると思う。ただ、私自身医療機関に勤務した経験もあり、医師の多忙さはよく分かっている。

 勿論、お医者さんに「一緒に来て、説明してほしい」と言われれば伺うし、この茨城のはずれから都内の大学病院まで行ったりもする。その点は、あくまでも主治医先生の状況次第で対応する。


 こうして無事、三輪さんからB先生に診断書作成を依頼することができた。それからしばらくは社労士としては、待つ時間になる。

 診断書が出来上がるまでどれくらい時間がかかるか? よく聞かれるが、おおよそ1か月くらいが平均だと思う。中には3ヶ月かかった事もあるし、その日のうちに書いてくれた場合もあった。

 先生方の仕事のやり方も千差万別なので、何とも言えない。個人経営のクリニックの方が早かったりもするが、でも精神科の先生で診断書の依頼が多い方の場合は「半年かかる」と言われ結局3ヶ月待ったりした。


 三輪さんに関しては、それからしばらくは、年金申請のために病歴就労状況等申立書を作成した。とはいっても、これはそれほど難しくない。B先生にお渡しした参考資料を基に、コピー&ペーストでおおよそできてしまう。こちらはとりあえず、細部まで作りこまずに、診断書が出来上がってきて、それと整合性がとれているか、確認しながら細かいところは作成する。


 その後、三輪さんから連絡があったのは、3月20日だった。
 診断書が出来上がり、今日病院からもらってきたとのこと。
 A病院から弊事務所までは近いので、三輪さんはこのまま弊事務所まで診断書を持ってくるとのことだった。
 私は電話を切ると、少しドキドキしながら三輪さんが来るのを待った。

第8章



 お忙しい中、主治医先生に時間を割いて書いてもらった診断書。この診断書を確認する時間が、障害年金の申請業務で、もしかすると一番緊張するのかもしれない。
 障害年金の審査事項で一番のウエイトを占めるのは、この診断書であり、診断書の内容が厚生労働省の「障害認定基準」と言われるものにまったく沿わないものであれば、障害認定は難しい。

 
 それから間もなく、三輪さんは診断書を持って事務所にいらっしゃった。2か月前にお会いした時と比べると、何となく元気がなかった。前回は、まもなく20歳になるお子さんがいるとは思えない若々しさがあった。しかし、今日はすっぴんにマスクをかけ、顔が紅潮している。


 診断書を預かると、私は封筒を開け、中身を確認した。病院で診断書の入った封筒を預っても、封がされている場合等、中身を見ないまま、提出してしまう方も多い。でも、診断書は中身を確認して、それから提出されることをお勧めする。診断書のちょっとした記入漏れのせいで、年金事務所等で書類を返され、申請までに余分に時間がかかってしまうこともあるし、診断書の中に矛盾点があったりすると、年金機構から主治医先生に照会文書が届いたりするからだ。


 診断書の傷病名は、「軽度知的障害、高機能自閉症」と記載されている。
 傷病の発生年月日は、英男さんの生年月日。初めて医師の診療を受けた日も生年月日が記載されていた。知的障害の場合、障害が先天的なものであり、その発病日も医師の診療を受けた日も生まれた日として取り扱われているためだ。そのため、他の傷病の場合は必要な「受診状況等証明書」という用紙が不要になっている。(この用紙は、簡単に言うと「初診日」を証明するもの。)

 A病院の初診日も、三輪さんの話した日と食い違っておらず、問題ない。
 その他、現症日もきちんと記入されている。現症日というのは、「この診断書は〇月〇日の状態について記入していますよ」ということを示す。診断書では平成○年2月25日になっていた。
 診断書の裏面も漏れなく記載されていて、厚生労働省の精神障害ガイドラインに照らし合わせると2級相当だった。


 「内容確認しました。きちんと書かれている診断書だと思います」

 1~2分程診断書を見ると、私は言った。

 「来月の誕生日すぎには、すぐ申請できそうですね」

 「そうですか・・・よかったです」

 「年金申請に向けて、ご用意いただきたいものがありまして、そちらはリストにしてメール致しますね」

 「分かりました」


 それで、その日は三輪さんと別れた。
 私はその日のうちに、メールで「申請までにご用意いただきたいもの」リストをお送りした。申請まであとわずかだった。


 しかし、そこで思わぬ事態が起きた。それは私の平凡な職業生活の中でも珍しい経験となった。
(社会保険労務士 海老澤亮)